人事制度・人事労務のコンサルティング|賃金制度

基本人事制度(等級制度)設計の考え方

Ⅰ.能力等級制度と役割等級制度

現在、基本となる人事制度について考えてみましょう。

1.能力と役割によるクラス区分

人事体系を構築するには、基本基準としての「能力」と「役割」を明らかにすることから始めます。

能力とは、現在担当している職務及び将来担当することが想定される職務を遂行していくために必要な職務遂行能力(略して職能といいます)を指すもので、年齢や勤続などの属人的な要素と仕事(職務)的要素の双方にまたがるものです。

一方の役割とは、もととは担当職務;jobから来ていますが、職務よりも上位の概念であるともいえます。すなわち、会社から管理職を含め担当者ごとに課せられた職務の範囲や責任と権限の程度、付加価値の大きさを指し、「役割責任」や「職責」ともいわれます。年齢や勤続並びに能力(職能)などの属人的な要素とは異なる客観的な観点に立つものと言われていながら、一方では和を重視する日本ならではのマネジメントスタイルを背景にした独特の意味合いも持ち合わせています。

これからの人事賃金制度は、この能力基準と役割基準の双方の要素を組み込んで再構築を図っていくことが避けられません。

また、これからの人事の基準は仕事の方をみるべきであり、「ヒト」を見るべきではないという言い方がよくされますが、現実的にみるとそう単純に割り切れるものではありません。すなわち、常に仕事とヒトの双方からのバランスを持った見方が必要です。

では、新しい人事制度のフレームワークの階層はどのように設定すべきでしょうか。まず、最初に役割の期待基準から以下のように区分)してみましょう。この役割期待基準によるレベル区分を「クラス」と呼びます。

①ジュニアクラス(一般職クラス)

大卒など初任の社会人からスタートして上司や先輩から指導や助言を得ながら自己の業務を確立し、一般担当者として業務を遂行する役割期待レベルを指すものです。

②シニアクラス(キャリアクラス)

職務経験を積み、ベテランとして自ら計画的により高度な業務をこなしていく役割期待レベルを指します。それまでの経験を発揮して企画的業務など高いレベルの仕事を担当しながら下位者への実務指導など縦の関係でも期待されてくる層となります。適性と本人の意思も固まってきて、能力の違いがはっきりとでてくる段階でもあります。まだ正規の管理職には該当しませんが、なかには、主任や係長などの役付き者もでてくる層です。 以上、①と②をあわせて潜在能力が顕在化していく段階としての能力開発期とする見方もできます。

③M(マネジメント)クラス

いわゆる管理職として、意識の面でも会社側の立場に立ってマネジメント業務を担当する層です。

管理職初任から能力発揮期という見方もできます。業種や職種規模によっても異なりますが、年齢からみれば30台半ばくらいからが一般的です。ただし、能力主義が叫ばれるなかで、昨今の抜擢人事が進んで以前より若年化してきています。

さらにこのMクラスについては、さらに2つに区分します。

MⅠは初任のいわゆる課長クラスを中心に設定します。MⅡクラスは、部長クラスを想定した上位管理職クラスとして位置づけます。すなわち部下に管理職が存在するクラスということで、役割期待レベルも異なってきます。また、評価制度からみると一般的には二次評価者に該当します。

④E(エグゼクティブ)クラス

全社的な立場からのマネジメントに関わる層であり、MⅡクラスとはさらに一線を画す段階となります。執行役員や従業員兼務役員あたりがこれに該当するという見方もできます。ただし、中小企業ではMⅡに含めて設計することも考えられます。

A.柔軟折衷型の「役割能力等級制度」

「役割能力等級制度」は私が従来から提唱してきたからのものです。

J~Sクラスについては能力開発に主眼を置きます。従来型の等級制度と異なるのは、Jクラスでは年功的な要素も残しているもののSクラスになると能力主義をいっそう強化させ、いわば真の実力型能力主義へと転換しているところです。

さらにMクラス以上については、基本基準を能力から役割の方へと大きくシフトさせます。賃金制度からみると、このことはより明瞭で、例えば基本給においてMクラス以上では定期昇給という制度はなく、基本給の要素としては役割給を主体として設計します。

この「役割能力等級制度」は、新入社員から管理職まで、企業(仕事)人生における前半までは年功的な要素も残しながら、これまでの日本企業で重視してきた超長期的視野での能力開発を重視し、管理職については役割期待から役割発揮を重視するように転換するタイプです。社内でのステータスを大事にしながらも、若い優秀な人材を抜擢することを促進し、役割は常に交代しうる一方で再度リカバリーすることもありうるということを社員の意識改革も含めて実践するシステムです。

B.「能力等級」と「役割等級」のダブルスタンダード型

これは、能力等級制度(職能資格制度)をベースに置きながら、一方では役割等級も設定し、二本柱とするものです。ここでは役割期待というあいまいなものではなく、どのポストに就いているのかといった「今現在の客観化された役割の付加価値」を指します。このタイプの場合、賃金制度も役割給の比重が大きい、能力給との併存型となります。 能力と役割の相互関係が明瞭に「みえる」人事制度であるともいえます。 この制度は、成果主義の意識が浸透し、年功や勤続による動機づけが薄い業種や職種が適しています。

※以上は、拙著「雇用ボーダーレス時代の際的人事管理マニュアル〔中央経済社〕」を中心に一部加筆修正したものです。

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